ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > 現代ガラス > 第4回現代ガラス展審査会

本文

第4回現代ガラス展審査会

「第4回現代ガラス展in山陽小野田」の作品を募集したところ、全国から111作品の応募があり、平成21年5月13日に開催された審査会において、受賞8作品と入選50作品が決定しました。これらの58作品は、特別出品の2作品と共に、7月17日から8月16日まで、山陽小野田市文化会館において展示されます。詳しくはこちら

受賞作品(8作品)

受賞8作品・入選50作品の一覧

大賞

「 Cocoon 」 川辺 雅規 福井県 37歳

大賞作品画像

全審査員に「洗練されている。」「良い歳を取っている。」「素晴らしい」と絶賛され、満票を獲得したCocoon。意味は「繭」。
白と透明のガラスが幾層にも重なってできた繭は、幽玄の世界を流れる白い笹の葉の船か、未来の宇宙船のようでもあり美しい。繭の中から姿を現した、琥珀色のガラスは、今まさに羽ばたこうとしている彼自身か。
これまで、第2回には優秀賞、第3回には入選作品を間近で見た。他のコンペでも、ガラスの層を見せる作風を確立していた。
だが、今回彼の得意とする技法は控えめで、その繭の中身を見たとき、この3年間に彼の感性に何か変化があったように思えてならなかった。
繭の中のガラスは、表面を細かく何度も何度も削って作られた芯だった。
今までのこだわり、不安など色々なものをそぎ落とし、身軽になって羽ばたこうとしている決心にも思えてくる。
昨年、ガラス作家として一番の理解者であるお父様を亡くされ、この夏、墓前に報告が出来るという。彼にとっては、再生の繭なのかもしれない。次に出会う彼の作品が非常に楽しみである。
(現代ガラス展学芸員 石原さやか)

優秀賞

「 浮 」 田邊 茉子 岡山県 26歳

優秀賞画像

「やった~!この作品は山陽小野田に出品するためにとっておいたんです」前回審査員賞をとった彼女は、山陽小野田市から応援されているような気がし、今回その応援に応えることができたとコメントをくれた。
キルンキャストとは、作りたい形を粘土で作り、耐火石膏で型取りをし、型の中にガラスの塊を入れ、電気炉の中で溶かし、一つの塊にする技法で、現代ガラスでよく使われる技法だ。
この作品は、自然にガラスが行きたい方向に、まだゆっくり動いている途中の様に見える。中にはくらげに見えるかわいらしい模様が幾層にもふわりふわりと漂っている。
あらかじめステンレスの竿で熔けた透明ガラスと色ガラスを交互に巻きつけるのを繰り返すことで色ガラスと透明ガラスの層ができる。これを型に入れて熔かし幾層にも模様が重なったように見せている。
色ガラスを使い、ピカピカに研磨し、大胆なデザインで硬いガラスのイメージがあるキャスト作品にくらべ、彼女のキャスト作品はやわらかい作品だが、「ガラスという素材の魅力を活かすことを大切にしている」という制作意図がしっかり表現されているので、見ていても安心感と心地よい浮遊感を楽しめる。電気炉から出した作品を砂と水と手で磨いて、優しいすりガラスに仕上げているあたりも、素材の魅力を大切にしている彼女らしい。
(現代ガラス展学芸員 石原さやか)

市長賞

「 躍進 」 光井 威善 広島県 21歳

市長賞画像

どうしても、気になってついつい見てしまう作品がある。この作品もそんな作品の中の一つだ。
制作意図には、突進・荒々しさ・うなりをたてる・挑戦などの文字が並ぶ。
きれいな形や気持ちの良いラインが目的ではなく、作っている自分にも牙を向いてくるようなものを生み出したかったという。
技法は前回紹介した優秀賞と同じキャスティングとあるが、この作品は形が複雑なので、粘土を作って石膏取りすると型から粘土を取り出すのが難しい作業になるという。そこで、粘土の代わりにワックスを使って原型を造り脱蝋する方法で、石膏型を取り出しやすくしたという。
技術的な難しさはもちろん、妥協せず作品と向き合い制作した彼の精神的な力が動力となって、作品が見る者の前へ突進してきそうで、ついつい気になって見てしまうのかもしれない。それだけ、強烈に彼のメッセージが表現された作品といえるだろう。
(現代ガラス展学芸員 石原さやか)

横山審査員賞

「 ツヅレオリ 」 竹本 亜紀 富山県 32歳

横山審査員長賞画像

きららガラス未来館に、前回の市長賞をとった彼女の作品が展示してある。きっと、今回の作品との作風の違いにおおいに驚かれることだろう。
まるでローマかギリシャからたった今、発掘されたばかりかと思えるような壺や水指がならび、使っていた人間の生活、長い間埋もれていた歴史を感じさせる作品だ。ガラスの道に入る前はデザイン科出身だった彼女ならではの巧妙なトリック的なデザインが、立体化されており、彼女の頭の良さを感じずにはいられない。
あれから3年、今回のツヅレオリという自分のガラスの世界を確立した。
高温で焼いても発色するエナメルを使って板ガラスにペイントする。それを幾枚も重ね、850℃前後の熱で板ガラスどうしを溶着させる。この技法をフュージングという。
前回の作品とはまったく技術も、見た目も違う作品だが、彼女のツヅレオリを見るたびに、第2回の大賞吉田薫さんの作品「古の気配4 」を見て「女性には、古代からの綿々と糸を紡いで機織をしてきたDNAがあるんだわ」とおっしゃったお客様の言葉を思い出す。
吉田さんがガラスでシルクの織物をすると言えるなら、ツヅレオリをペイントする竹本さんもやはりガラスで久留米絣などの絣を織っているような気がした。女性が何千年とうけついでいるDNAの一部が芸術として発露したような思いがする。
(現代ガラス展学芸員 石原さやか)

井土審査員賞

「 水月 」 近田 芳明 愛知県 28歳

井土審査員賞

鏡を覗いてみる。ひと際妖しい月が鏡の水面に浮かんでいる。吸い込まれそうなその月の色はどこか別の世界の月のようだ。
この不思議な色あいの月は、フュージング(ガラスとガラスを電気炉で熔着させる技法)で大小様々なパーツを作り、それを、ベースとなる板ガラスに立体的に接着し、それを覆うようにスランピング(熱を加えて自重で形を作る技法)で月の形に造ったパーツを接着してある。
フュージングは、色ガラスのかけらを好みに組み合わせて熔着させ、手軽なアクセサリーの体験教室を行っているところも多いので、女性に馴染みがある技法だと思う。
氏は苦労や特別な技法はなく、ただひたすらに基本的な技法で丁寧に仕上げたという。あなたには、何色の月が見えるだろうか。ぜひ、鏡を覗いてみてほしい。
(現代ガラス展学芸員 石原さやか)

隈審査員賞

「 Y G 4 」 富永 良 愛媛県 26歳

隈審査員賞

「Y G 4の意味は?」笑いながら、「イエローグリーンのYとGで、4は中に見える丸の形の数です」と受賞を告げる電話で教えてもらった。
技法は、粘土で作りたい形をつくり、耐火石膏で型を取り、ガラスを詰めて電気炉で溶かすキルンキャストだが、彼の作り方は、四角い型の中に上から穴を通してガラスが熔けて落ちるときにらせん状になるという。その色の層や意図したとおりの渦、偶然の模様などが入ったガラスの塊を、いかにその模様を見せるのに形をどう削ったらいいのか考え、時には立方体に、時には別の形に削ったり磨いたりするという。型に合わせるのではなく、中の色彩に合わせた形に削るのだ。そう思ってよく観て欲しい。うまく中の模様が見える形になっているのがよくわかる。
タイトルが先にあるわけではなく、作りたい形があるのではない、すべてはガラスの色彩と模様が彼に「綺麗にみせてね」とささやくのかもしれない。今回の作品は、中の渦巻きを見せる為にこの形に削られたのだ。
答はないが私には「森の種」に思えた。その形は種か勾玉のようで、中には森に守られた地球最後の種が大事に閉じ込められているような気がした。人それぞれに感じ方が違って当然。難しい芸術はわからないなどと否定しないでじっくり観て欲しい。
氏曰く「いろいろな見所があると思うので、じっくり観ていただけるとうれしい。」
(現代ガラス展学芸員 石原さやか)

土屋審査員賞

「 転成 」 佐々木 雅浩 愛知県 39歳

土屋審査員賞

技法をみて驚いた。いわゆる吹きガラスと砂を高圧で吹きつけ模様などを削る技法だけで、何故こんな作品ができるのか。吹いた作品をひたすら削ったのだろうか・・・。
触れたら折れてしまいそうなくらい薄く限界まで削られ、風が吹けばコロコロ転がりそうで、和紙で作られているようにも見えるが、重さは5キログラム。
さらに、制作意図と作品が見事に一致している。
砂は熱によってガラスに変わる。作者によってガラス作品に変えられる。でもそのまま時が流れ風化すればまたいつか砂に戻る。つまり、私達が観ているこの作品は、確かに今ここに存在しているが、風化されていく悠久のほんの一瞬をみているだけなのだ。
氏曰く、「どうやって作ったのか、ガラスをやっている人でも考えてしまうような作品を作りたいと思っていた。」まんまと彼の術中はまってみませんか?
(現代ガラス展学芸員 石原さやか)

三輪審査員賞

「 うたかた 」 梶原 朋子 富山県 26歳

三輪審査員賞

大きな透明の宙吹きガラスが二つ。どっしりとした存在感がある。中には細かい気泡や大きな気泡もある、自然にねじれた感じもある。果たして、どこまで意図して作られたものなのか。
彼女に聞いてみた。重曹で細かな気泡を入れ、別の竿でもう一つ吹いたガラスを本体に巻き付け、はさみ等で切ったりしながら泡の大きさを調節する水泡という技法で、細かく意図された作品だった。
ただ、熔けたガラスは生き物のように、ガラスの思うままに自然に成りたい様になるという。それを温度差や、ガラスの厚みなどをコントロールして吹きガラスの作品が完成する。
だから彼女は言う、「ガラスにこんなふうになって欲しいなという意図はあるが、あくまでもガラスの流れに逆らわない」
(現代ガラス展学芸員 石原さやか)

審査会風景

審査員が、出品された全作品から、投票と話し合いを繰り返しながら、まず入選58作品を選び、その中から受賞8作品を決定しました。

審査員長
横山 尚人 (ガラス造形作家・日本ガラス工芸協会監事)
審査員
井土 誠 (下関市立美術館館長)
隈 研吾 (建築家・東京大学教授)
土屋 良雄 (サントリー美術館企画委員・日本ガラス工芸学会理事)
十二代 三輪 休雪 (陶芸家)

審査会風景1 審査会風景2

Adobe Reader

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe社が提供するAdobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先からダウンロードしてください。(無料)